前回(第12回)の最後で、日本全国の土地の総額は大正8年(1919年)の時点で約331億円だと書いた。
「明治~大正時代の国富調査」
大正13年(1924年)の時点でも約332億円である。(内地だけで、朝鮮・台湾等は含まない)
「大正十三年に於ける国富推計」(昭和3年に内閣統計局が発行した書籍のPDF)(内閣府経済社会総合研究所のサイト内)
土地総額は年々上昇しているはずだ。
もっと後年の、昭和前半のデータが欲しいのだが、ちょっと見つからなかった。
こちらのページには、明治から平成までの、政府の歳入・歳出の金額がまとめられている。
「明治から平成の歳入、歳出の年間推移」
これを見ると、大正8年(1919年)から昭和10年(1935年)まで、歳入は約20億円前後で推移している。
大正8年の時点で考えると、土地総額は、歳入の16年分くらいの額になる。
王仁三郎は土地を天皇に返還して、その土地をもとにして、1000億円とか1200億円とかの紙幣を発行せよと唱えていた。
その金額の出所は何なのかは分からないが、どうやら土地総額そのものではないようだ。土地総額の3倍もある。
「日本を徹底的に建直すにおいては、一千億円の金が要ると思う」〔昭和10年発行『惟神の道』所収「神政運動について」〕
と王仁三郎は述べている。
つまり1000億とか1200億とかの金額は、経済的困窮に陥った日本社会を立て直すために必要だと思う金額のようだ。
仮に1000億円ならば、歳入の50年分もの額になる。
それだけのお金があれば、税金を0円にしても大丈夫だろう。
しかし、そもそも土地をもとにして紙幣を発行するということは、どういうことなのだろうか?
金本位制というのは、金という金銭的価値があるモノを金庫に保管し、持ち運びしやすいように紙幣を発行する。その紙幣は金と交換可能(兌換)なので、金の引換券とか預かり証のようなものだ。
それと同じように土地本位制というものを考えてみると、土地と交換可能な紙幣を発行するということになる。
しかし、金というものは、あの金もこの金も、みな同じ価値だが、土地というものは、この土地とあの土地とでは価値が異なる。場所によって価格の差が大きい。
実際に紙幣と交換してくれと申し出たら、一体どこの土地と交換してくれるのだろうか???
土地と交換可能な紙幣というものは、仕組みが全くよく分からない。
そもそも土地を国有化することで、そんな大量のお金を生み出すことが出来るのであれば、共産主義国家はどこも経済が潤っているはずだ。しかしそんな話は聞いたことがない。
前々回(第11回)で、80年代のバブル期に造語された「土地本位制」という言葉があるということを書いたが、さらに調べて行くと、土地をもとに紙幣を発行するという考えがかなり昔からあることが分かった。
主なものが二つある。
まず一つ目は、フランスの「アッシニア」という紙幣だ。
18世紀末のフランス革命の最中に発行された紙幣である。
フランス革命を語るのにアッシニアは重要なキーワードの一つのようだ。
アッシニアは、革命政府によって国有化された教会の財産を担保として発行された紙幣である。
土地を証券化したもので、紙幣と言うよりは、土地債券だ。
仮にアッシニア紙幣と土地を交換することがあるのなら、それは土地の売買と同じことになる。
全国の土地の中のほんの一部分、しかも教会の土地だけを担保としているので、これは理屈としては理解できる。
しかし全国全ての土地を担保とするのであれば、なかなか理解が難しい。
人が住んでいる土地を売買したり、利用価値のない原野を売買するのはなかなか難しいので、全国の土地を一律に証券化するのは難しいだろう。
アッシニアは恒久的な紙幣ではなく、革命政府が財政難のために臨時にとった策だ。
結局、インフレを引き起こして廃止された。これは失敗例である。
コトバンク:アッシニア紙幣
ウィキペディア:アッシニア
二つ目は、ドイツの「レンテンマルク」だ。
1920年代に、第一次大戦後のインフレを立て直すため臨時に発行された紙幣である。
レンテン(Renten)とは、土地の所有者がその土地から得られる収入(地代など)のことだ。
こちらはアッシニアと異なり、土地自体を担保にするのではなく、地代を担保に紙幣を発行するシステムである。
ドイツ国内の土地(全ての土地ではなく、農地や、商工業者が持つ土地)に「土地債務」というものを設定する。
これは言うなれば地代(借地料)である。
この地代を担保として、紙幣を発行するのだ。
これによってドイツのインフレは収束したそうだ。これは成功例である。
コトバンク:レンテンマルク
ウィキペディア:レンテンマルク
国立国会図書館デジタルコレクション:『レンテンマルクの奇跡』昭和21年刊
王仁三郎が皇道経済論を提唱したのとほぼ同時期にドイツで実施されたレンテンマルクが、王仁三郎が説く土地為本(土地本位)を理解するのに一番役立ちそうだ。
国民が土地を天皇(国)に返還し、大地主となった天皇が、土地の地代(土地の使用料)を担保に紙幣を発行するということであれば、王仁三郎が説く土地為本は理解できる。
実際にドイツで成功例があるのだ。
しかしいずれにせよ、経済的困窮を打開するための一時的な施策に過ぎない。
それに、土地総額(約332億円)の3倍もの額(1000億円)の地代を設定するというのは、常識外れだ。この方法では1000億円の調達は無理で、せいぜい1年の歳入と同じくらいの額(約20億円)しか調達できないのではないだろうか。
王仁三郎自身も、土地為本は一時的な策だと考えていたようだ。
「金銀為本を廃(や)め、土地為本の制度にするが最も平易にして簡単で、効力の多い御稜威(みいづ)為本としたならば、必要な金はいくらでも出すことで出来る」〔『惟神の道』(昭和10年発行)所収「神政運動について」〕
と王仁三郎は説いており、土地為本は「平易にして簡単」だが、御稜威為本の方が「効力の多い」やり方だと言っている。
では、この御稜威為本とは何か?ということになるが、これもまた王仁三郎は具体的なことは説いていない。
推測するしかないのだが、既存の概念で言うと、管理通貨制度と政府紙幣を同時に実行するようなものではないかと思う。
(続く)
(このシリーズは「霊界物語スーパーメールマガジン」令和2年(2020年)8月24日号から12月28日号にかけて25回連載した文章に加筆訂正したものです)