出口王仁三郎は金銀為本に代わり「土地為本」を導入すべきだと提唱した。
「土地本位」という言葉も使っているが、土地為本と土地本位は特に使い分けている様子はないので、どちらも同じ意味のようである。
ちなみに「金銀為本」と「金銀本位」という言葉も使い分けている様子はない。しかし経済制度としての「金本位制」は別である。金本位制を包括する上位概念が金銀為本だ。(前回までを参照)
80年代のバブル期に造語された「土地本位制」という言葉があるということは前回(第11回)書いた。それは土地を担保に銀行がお金を貸すことで、土地の含み益の分だけお金が新たに生み出されて行く状況を指す言葉である。
しかし王仁三郎が説く土地為本(土地本位)は、それとは全く別の概念だ。
王仁三郎は「御稜威(みいづ)為本」というものも提唱している。
御稜威為本が最終段階で、土地為本はその前段階のようである。
これから土地為本と御稜威為本について解説して行く。
その前に注意点を二つ書いておく。
これは皇道経済論のみならず、王仁三郎の教えを学ぶ時には必ず注意しなくてはいけないことである。
まず一つは、王仁三郎は学者でもなく政治家でもなく、宗教家だ。学術的、政策的に、不可解な部分、実現不可能な部分があっても仕方がない。宗教の役割は、政策とか、具体的なことを説くことではなく、哲学的、抽象的なことを説くことだ。人間の行動のもととなる意識を変容させることが主な目的である。それを「改心」などと呼ぶわけだ。
王仁三郎が政治や経済に関して説いた教示は、政治学や経済学そのものではなく、政治学や経済学を変容せしめるための思想である。体(たい)ではなく霊(れい)を説くのが宗教だ。
二つ目は、王仁三郎の教示には、その時代、その地域にしか通用しないものがある。時間的・空間的に普遍的なものと、限定的なものとがあるのだ。
たとえば昭和青年会で昭和8年(1933年)から防空演習や、防空思想普及のため防空展(防空展覧会)を行った。これはアメリカの将軍が「日本を空爆可能だ」と挑発的な発言をし、日本国内で危機感が募ったために行ったのである。〔『大本七十年史 下巻』「昭和青年会と防空運動」〕
これなんかは、この時代、この地域(日本)に必要だから行った活動であって、「聖師様が防空演習をせよと命じたから現代日本でもそれをやろう」などと考えるのはあまりにも浅はかである。
この二つの点を考慮しながら、王仁三郎の教えを学んで行く必要がある。
☆ ☆ ☆
土地為本について王仁三郎が書いた次の文書が比較的分かりやすく書いてある。
簡単に言うと──国土は本来すべて天皇の土地であるが、明治以降、個人が私有化するようになった。これを天皇にお返しする。その金額がたとえば一千億円であれば、一千億円の紙幣を発行することによって、経済的に苦しんでいる人たちを救済する──というものだ。
それからこの「皇道経済」というものは、総てこの世界──普天の下(ふてんのもと)率土の浜(そっとのひん)(注・天地全てという意味)に到るまで皇土ならざるなし──で天皇陛下の御国土である。即ち神様からお引継ぎになったところの国土である。明治維新までは諸大名が、土地を自由に私有して乱暴なことをやっていた。その結果が明治維新となって土地を陛下に奉還してしまった。そうすれば残らず天津日嗣(あまつひつぎ)天皇の御物である。故に人民の所有権というものは外国にはあっても日本にはなかったのである。
しかし外国流にまた土地の所有権というものが明治七、八年頃から出来たのである。しかしながらこれは元来みな神様の土地であり陛下の土地である。それで今陛下からお借りしていると思ったらいいのである。所有権ではなしに拝借権と思っておったらよいのである。自分の地面だと思ったらあてが違う。
今日の経済は金銀為本の経済で、総てが金銀を以て代用する経済であるが、これを土地為本の経済にすれば、日本全体は、拝借権は別として、全部天皇陛下の御物である。そこで天皇陛下の御心のままに必要に応じて御稜威紙幣をお出しになれば、日本の人民は喜んでこれを迎えるものと私は考えているのである。
現在日本の正貨(せいか)(注・保有する金と等しい貨幣)は四億に足るか足らぬかであるが、公債その他の発行高を合すれば実に莫大なものである。もしこれが外国であったならば、公債を二十億も発行して正貨が四億しかないということになれば、たちまちその価値が正貨に準じて下って来るのである。即ち二十億が四億の価値しかなくなるのであるが、日本の国は一天万乗の大君(おおきみ)(注・天皇のこと)の御稜威(みいづ)が輝いている為に、今の紙幣が本当の不換紙幣と同じようなものであっても価値に変動がない。今の兌換紙幣を日本銀行に持って行って金貨に取換えようとしても換えてくれない(注・昭和6年に金輸出が禁止になり兌換停止になっていた)。それでも天皇陛下がましますが故に国民全体が安心しているのである。
それでもう一歩を進めて、金銀為本を廃(や)め、土地為本の制度にするが最も平易にして簡単で、効力の多い御稜威為本としたならば、必要な金(かね)はいくらでも出すことで出来る。もちろん無茶苦茶に出してはいけないが、まず日本を徹底的に建直すにおいては、一千億円の金が要ると思うのである。
この一千億円の紙幣を陛下の御稜威によって御発行になったならば、農民も商工業者も、その他総ての苦しんでいる人達を救うことが出来るのである。つまりその紙幣によって、日本国がすっくりと建直るまでは五年でも六年でも総ての××(注・ここは伏せ字だが「税金」だと思われる)を免除する。そうしたならば日本の国は数年ならずして本当の元の天国浄土に立還ることが出来得るのである。これは経済機構の都合で何でもない仕事である。
〔『惟神の道』(昭和10年発行)所収「神政運動について」〕
「総てこの世界」と書いてあるように、日本列島に限らず、地球上の全ての土地は、神から引き継いだ天皇の国土である。
土地は全て天皇のものだというのは、世界統治は天皇の神業であり、その神業を遂行するための地球国土だからだ。
昔は親が死んだら財産は長男が全て相続した。そのかわり長男は、家族全てを扶養する義務を負った。現代は個人主義だから遺産は遺族が分割して相続する。遺産が現金ならば分割相続でもいいだろう。しかし農業など家業は、本来分割できるものではない。土地や建物は分割してしまったら家業が成り立たなくなってしまう。だから長男一人だけが相続し、代わりに家族を扶養する義務を負ったのだ。
土地は天皇のものだというのも、それと同じようなことである。天皇が私物として使うのではなく、天下蒼生のために使うのだ。
天皇の私有ではなく、国有・公有と同じような意味である。
五六七の世には土地を私有するという考えはなくなっている。
天界では土地は公有だ。〔霊界物語第48巻第10章「天国の富」〕
その天界が地上に移写されて地上天国、つまり五六七の世が創られる。だから地上界でも土地の私有という考えは廃れて行く。
かつて奴隷制度があった時代は、人間が人間(奴隷)を所有するという考えが公然と認められていた。
しかし今は人間を所有するという考えは全く否定されている。
それと同じように、土地を所有するという考えも次第に否定されて行くのだ。
そもそも、土地は本来誰のものでもない。天皇のものでもないし、国のものでもない。
強いて言うなら神様のものだ。
国祖・国常立尊の肉体である地球の上に、私たちは住まわせていただいているのであって、それを誰かが所有し私物化するというのは、とんでもない考えである。神に対する反逆だ。
しかし今は私たちは、土地を所有するという考えに頭が染まっているので、仮に国有だとか、天皇のものだとか、そのように表現しておくのがいいだろう。
前述の文章には書いていないが、国民が私物化している土地を全て天皇に返還し、土地為本(土地本位)にして、紙幣を発行すべしと王仁三郎は言っている。
日本には、金(きん)より尊い皇室の御稜威(みいづ)というものがある。御稜威によって、札(さつ)をなんぼ出されても、国民は喜んでこれを使う。外国では、そういう事は出来んが、日本は出来る。
これは神勅だから、どうしてもそうなる。普天の下、率土の浜は、みな皇室のもんや。御神勅によって、皇室のものに決まっておる。皇室は、これを継承されておられるのだから、一旦これを全部皇室にお還しするのや。土地本位になるのやから、土地を奉還する。
その土地が一千二百億円のものやったら、それだけの財産が皇室のものになる。皇室からは一千二百億円の札をお下げになるから、国民にそれだけの金が廻って来る。土地本位やから、国民がその土地を借りるのや。ワシは昔から、そう言っている。
今でも、土地を国民が勝手に自分のもんやと思っているが、これはみな皇室のもんや。皇室のもんやから税金を払っているのだ。それやから、そういう方法にしたら、日本の中がうまく出来る。
〔出口王仁三郎氏に物を訊く座談会〕日本には金銀より尊い皇室の御稜威というものがある。この陛下の御稜威によって紙幣をいくら発行しても国民は喜んで使用する。外国では出来ないが日本では出来る。即ち普天の下、率土の浜に至るまで皆ことごとく皇室のものであるからである。
故に一旦これを全部皇室にお還しする、その土地が一千億円のものであったら、それだけの財産が皇室のものになる。皇室からは御稜威により五百億円でも一千億円でも紙幣をお下げになるから、国民にそれだけのお金が回って来るわけである。要するに御稜威為本、土地為本となるのである。
〔『惟神の道』所収「皇道経済我観」〕
1200億円とか、1000億円とかいう金額が出て来た。
この数字がどこから出て来たのかは分からないが、日本国土の土地の総額だろうか?
このページに、戦前の土地の総額が載っている。大正8年(1919年)の時点だと、約331億円である。
「明治~大正時代の国富調査」
第二次大戦後は、バブルのピーク時で2000兆円を超えていた。2018年末の時点だと、1200兆円くらいのようだ。
日本経済新聞「国富、20年ぶり水準に回復 18年末3457兆円」
(続く)
(このシリーズは「霊界物語スーパーメールマガジン」令和2年(2020年)8月24日号から12月28日号にかけて25回連載した文章に加筆訂正したものです)