「ワールドワーク」というものをご存知でしょうか?
ユング心理学者のアーノルド・ミンデル(ウィキペディア参照)という人が創始したプロセス指向心理学を、会社や地域社会などの組織・団体に応用したものです。
紛争解決に役立つワークです。
たとえば宗教や人種で対立し、武力衝突が起きている地域で、対立している住民を集めてこのワークを行うのです。
多人数で行うグループセッションによくあるのは、アルコールやギャンブル依存症の人が集まって行うものです。
それぞれ自分の体験を語り合い、それに共感したり、励まし合ったりするわけです。
そこに「敵」はいません。ある意味ではみな同じような体験をした仲間(味方)ばかりです。
しかしこのワールドワークは、対立する人たちが集まります。お互いに、自分は被害者で、相手が加害者であると思っている敵同志です。
すごく激しいセッションになるでしょうね。
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北朝鮮が核兵器の実験を行い、日米韓など関係諸国との対立がどんどん深まっていますが、国家間の対立でも、企業間でも、家族間でも、対立・紛争が起きるとよく「対話が大切だ」とか言います。
しかし対立もこじれてしまうと、もはや対話しても解決にはつながりません。
お互いに自分の利益を主張し、相手の非を責めるだけで、ますます仲がこじれるだけです。
感情が傷ついて、理性で解決できるレベルではなくなっているのです。
特に、怒りで頭に血が上っていると、自分のことしか考えることが出来なくなってしまいます。相手のことなど考える余地がありません。
和解なんてとうてい不可能です。
そういう場合は、理性的に解決しようとするのではなく、逆に感情を爆発させて、お互いに感情同志で戦わせた方が、むしろ解決につながる場合があります。
よく、不良少年を扱ったテレビドラマなんかに、子供が家庭で暴れた挙げ句に親と感情剥き出しのバトルをして心の奥底に押し籠めていた感情を吐露する場面がありますが、あれです。
「雨降って地固まる」です。
とはいえ、感情剥き出しのバトルは危険です。取っ組み合いのケンカになり、さらに相手を傷つけ、解決するどころか、かえって憎悪が深まる可能性もあります。
だからちゃんとファシリテーター(進行役)がいて、ルールに則って、感情の吐露を行って行く必要があるのです。
私の理解では、ワールドワークとはそういうグループセッションです。
(専門家から「そんな単純なものではない!」とお叱りを受けそうですが、私はその道の専門家ではないのでご了承下さい)
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ワールドワークの参加者は、最初は敵(相手)に対して憎悪が剥き出しでも、「爆撃されて怖ろしかった」とか「銃で子供が殺されてとても悲しかった」という敵の体験談を聞いていくにつれ、『敵も自分と同じように、つらい思いをしていたのだ』という、感情の共感が生じて来ます。
相手の悲しい想いに耳を傾けることで、自分の正義は相手にとっては不義であるという、理性的に考えれば当たり前のことを実感するわけです。自分の報復が相手の報復を生み、憎悪が連鎖して、ここまで町が荒廃してしまったのだという現実を目の当たりにするのです。
それによって直ちに紛争が解決するわけではありません。
参加者が、憎しみを持って行く場がなくなってしまい、今度はその憎しみをどこに向けるのか、その向かう方向によってはますます大変なことにもなりかねません。
とはいえ、愛する家族を殺された人が憎しみをなくすことはなかなか出来ないと思います。
前回書いたように、憎悪を昇華できればいいのですが。。。
ワールドワークだけで紛争が解決するわけではありませんが、紛争解決に役立つワークであると思います。
興味のある方は勉強して下さい。
●A・ミンデル『紛争の心理学 ──融合の炎のワーク』講談社現代新書
http://amzn.to/2eKzOXU
●ワールドワーク ウィキペディア
(続く)
「言向け和すメールマガジン」2016年1月13日号