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言向和(29) やられても、やり返さない ─バンクーバー朝日の場合

Published / by 飯塚弘明
投稿:2017年08月20日

霊界物語第12巻の「一つ島の深雪姫」のエピソードを以前に紹介しました。(第17回参照)

やられても、やり返さずに、敵と友達になってしまったエピソードですが、実際に起きた出来事の中から、それと似たようなエピソードを見つけました。

「バンクーバー朝日」という野球チームをご存知でしょうか?
日本のチームではありません。第二次世界大戦前にカナダにあった日系人のアマチュア野球チームです。

十九世紀末(明治半ば)から二十世紀初頭にかけて、大勢の日本人が新天地を夢見て海を渡り、遙か彼方のカナダへ移住して行きました。しかし夢の大陸で彼らを待ち受けていたものは、人種差別や過酷な肉体労働、貧困といった厳しい現実でした。

そんな中、日系人社会に一つの野球チームが生まれました。それが「バンクーバー朝日」です。

2014年12月、この日系人チームの栄光と奇跡の物語を映画化した『バンクーバーの朝日』が公開されました。
夢も希望も持てなかった時代に、彼らの活躍が日系人にとって一筋の光となる──という実話をもとにした映画です。

バンクーバー朝日は日系二世の若者を中心にしたチームで、最初はとても弱いチームでした。白人の方がはるかに体が大きく、パワーがあるのでなかなか勝てません。
しかし小柄であることを逆手に取り、その機動力を生かして、バント、盗塁、ヒットエンドランといった業を駆使して、白人のチームを打ち破り、見事リーグ優勝を果たして、白人社会からも支持されるようになります。

彼らバンクーバー朝日の物語の中に「言向け和す」の実例となるエピソードを見つけました。
ここでは映画ではなく次のテレビ番組をもとに紹介します。

●フジテレビ系『奇跡体験!アンビリバボー』2014年12月20日放送(ドキュメンタリー系のバラエティ番組)
 次の書物も参考にしました。
●テッド・Y・フルモト『バンクーバー朝日 ~日系人野球チームの奇跡』2014年、文芸社
●後藤紀夫『伝説の野球ティーム バンクーバー朝日物語』2010年、岩波書店

日本からカナダに移住した日系人はとても勤勉でした。
しかしやがて、安い賃金でも文句を言わずに働く日系人と、地元の白人との間にトラブルが起きるようなります。「白人の仕事を日系人が奪っている」というのです。
そして日系人排撃運動が起こりました。まじめに働いているだけなのに、文化の違いから偏見が生まれ、憎まれるのです。

1907年(明治40年)9月、大規模な反日デモが起こりました。5千人もの群衆が手に手にプラカードを持ちシュプレヒコールを上げて市内をデモ行進。夜になって群衆は暴徒化し、日系人街を襲撃したのです。「ジャップは死ね!」「出て行け!」と石を投げて、家々の窓ガラスを割ります。

日系人たちは家族の生命と財産を守るため、棍棒を持ち、石や瓦礫を投げ返し、実力で暴徒を撃退しました。自分たちの街を守ったのです。

すると──「日系人は危険だ」と新聞は報道しました。「日系人は野蛮で好戦的な人種だ」という歪められたイメージで伝えられたのです。

そもそも白人が起こした暴動なのに、それに抵抗したことで、逆に日系人は危険な連中であると思われてしまったのです。
カナダ政府はこの暴動以降、移民を厳しく制限するようになりました。

その頃カナダでは野球が盛んでした。そこで日系人としての誇りを保つために日系人の野球チームが作られたのです。白人に勝つ強くチームを作って、白人どもを見返してやろう、と。
こうして日系人の間で野球チームがいくつか作られて行きました。
そして排日暴動の7年後の1914年(大正3年)に、二十歳前後の日系二世を主体とした野球チーム「バンクーバー朝日」が結成されたのです。

最初は弱小チームでしたが次第に実力を身につけ、結成から5年後には日系人チームの中ではナンバー1となります。そしてカナダのセミプロチームで作るリーグに加盟して、白人チームと試合をするようになりました。

するとリーグで白星を重ねて行き、ついにリーグ優勝の候補チームとなります。
そうなると面白くないのは白人チームです。実力で敵わないならと、ラフプレーで勝負して来ます。走塁中に体をぶつけたり、バッターがボールを打つと同時にバットを投げるような不正を仕掛けてくるのです。

リーグ優勝を果たしたバンクーバー朝日は、上部リーグに入ることが認められました。
しかし日系人に対する憎しみがなくなったわけではありません。白人たちは日系人チームが白人チームに倒されるのを見たくて集まって来ます。そのためリーグにとっては集客力の高いチームなのです。

白人チームの不正プレーは止みません。それに抗議する日系人と白人とで試合中に場内乱闘も起きることもありました。
そして、審判もあらかさまに差別するようになるのです。どうみてもセーフなのにアウトと言う白人優遇のジャッジです。それに対して観客も「それ、ジャップをやっつけろ」と沸き上がります。不正プレーで日系人チームは散々です。

監督が変わり、新しい方針が作られました。その一つは、打力よりも機動力やバントなどの小技を、そして徹底して守備を磨くことにしました。いわゆる「スモール・ベースボール」を目指したのです。

そして新監督はもう一つ、フェアプレー精神を徹底させました。審判への抗議は一切禁止にして、どんな不正なジャッジでも決して抗議しないことにしたのです。

しかしバンクーバー朝日は相変わらず惨敗続きです。抵抗しないことをいいことに白人チームは不正プレーをやりたい放題なのです。

「あそこまでされて何で黙っているんだ。何でやり返さない? 勝ちさえすればいいじゃないか」という声がバンクーバー朝日の支援者から沸き起こりました。

ここで前述のテレビ番組では再現ビデオの中で監督に次のように語らせています。

「やられたらやり返す。それでどうなりましたか? 13年前、あの暴動で、白人たちの憎しみに、ぼくらは憎しみで報いました。その結果、何が生まれましたか? 憎しみが憎しみを呼んだだけじゃありませんか? バンクーバー朝日軍は勝たなければならない。だけど勝ちさえすればいいわけじゃない。ぼくたちは白人たちに見せてやりたいんです。どんな不利な状況でも正々堂々と戦い、そして勝つ。それがぼくら日系人の本当の姿だと、祖国日本の魂だと」

その後も、どんなに不正なプレー、偏向した審判をされても、黙ってフェアプレー精神を貫き続けました。この姿勢が白人からはジェントルマンと映り、次第に高く評価されるようになって行くのです。

そしてあるとき大きな事件が起きました。
朝日軍が5点リードしている9回裏、白人チームの攻撃で、ランナー満塁のピンチです。
ここで何とヒットを打たれてしまい、走者が全員戻り、打者も本塁に滑り込んで来ました。

どう見てもアウトですが、審判のジャッジはセーフ。
これで4点取られて1点差にまで縮められてしまいました。

このときも朝日軍は抗議をしませんでした。
しかし、この明らかに不正なジャッジに怒ったのは、白人の観客たちでした。
およそ3千人の観衆は激高してグランドに乱入し、審判を取り囲んで激しく抗議したのです。

今まで日系人を敵視し不正プレー不正ジャッジを喜んでいた白人が、何と今は不正に怒って抗議しているのです。
結局判定は覆りませんでしたが、試合再開後に朝日軍が何とか逃げ切り勝利を収めました。

そして新監督就任から五年目、チーム結成から十二年目にとうとうリーグ優勝を果たし、日系人と白人のファンが抱き合って喜び合ったのです──。

   ○   ○   ○

やられてもやり返さずに、正々堂々とフェアプレーを続ける態度が、白人の日系人に対する憎悪・偏見を和して行ったようです。
卑近な言葉で言うと「こいつら実は良いやつじゃん」ということです。今まで悪いやつだと思っていた日系人が、実は正々堂々と戦うジェントルマンだったと、認識が180度変わったのです。
「悪いやつ」だと思っていたからこそ、悪に天誅を下すつもりで日系人街を襲撃したり、アンフェアなプレイやジャッジを正当化していたのでしょうが、相手がジェントルマンなら、それを攻撃する方が悪になってしまいます。

敵から攻撃された場合、人はどういう反応をするでしょうか?
たいていは戦うか逃げるかのどちらかです。
これは人間に限らず、動物はみなそうです。
ワンちゃんは敵が来たら、ワンワンと吠えます。もし敵が自分より強いと思ったら尻尾を巻いて逃げます。相手に服従する、ということもありますが、これは負けて屈服したので、敗退して逃げるのと一緒です。

しかし人間には第三の道があります。それは「敵と友達になる」ということです。つまり「言向け和す」です。(第23回も参照)

日系人街が白人の暴徒に襲撃されたとき、日系人は実力でそれを阻止しました。戦ったのです。
これは予想される反応の一つです。
そして白人側は日系人は狂暴だと憎悪・偏見を増幅させました。
これでは敵の思う壺です。日系人をカナダ社会から締め出すための、いい口実になってしまいます。

このとき日系人は、荷物をまとめて日本に逃げ帰ることもできたでしょう。しかしそれも敵の思う壺です。日系人がいなくなれば大喜びです。逃げても戦っても、敵の罠にはまってしまうのです。

不正プレー不正ジャッジで散々苦しめられた朝日軍は、不正プレーでやり返したり、不正に断固抗議して戦うこともできたでしょう。また、憤慨してリーグから脱退することもできたでしょう。どちらも予想される当然の反応であり、どちらを選んでも敵の思う壺です。

しかし朝日軍は逃げも戦いもせず、黙々とフェアプレーを貫き通しました。それによって白人たちの気持ちを変えることができたのです。敵と和合して、友達になることができたのです。
これは他の動物にはできません。ライオンとシマウマが友達になったという話は聞いたことがありませんね(笑) これは人間にしかできない業(わざ)です。

前にも書きましたが(第23回)出口王仁三郎は、人というのは神の霊が止(とど)まる「霊止(ひと)」であると説きました。
人間の肉体だけ見ればただの動物です。そこに神の霊が入って霊止となるのです。

敵味方の垣根を取り払って和合して、調和の取れた世界を築くのは、まさに神の為せる業です。

みんな仲良く暮らしたい、という気持ちは人間なら誰でも持っていると思います。日本人は特にそれが強いと思います。

朝日軍が取った態度は、日本精神、大和(だいわ)の精神の発揚でした。
そしてそれが「言向け和す」なのです。

(続く)


この文章は過去に次のところへ掲載した文章を加筆訂正したものです。
霊界物語スーパーメールマガジン」2015年1月19日号 及び
電子書籍『言向け和す ~戦わずに世の中を良くする方法』(2015年12月)