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言向和(37) 敵と友達になる─仮面ライダーフォーゼと塩田剛三

Published / by 飯塚弘明
投稿:2017年08月28日

子ども向けのテレビドラマやアニメには勧善懲悪物をよく見かけますが、天に代わって悪を成敗するようなドラマの中にも、たまに「言向け和す」を見つけることができます。

今回は『仮面ライダーフォーゼ』の最終回を紹介します。

「フォーゼ」は仮面ライダーシリーズの誕生40周年記念として作られた作品で、2011年9月から一年間放送されました。

私立高校が舞台の学園青春ドラマ風になっています。
主人公は高校二年生の如月弦太朗(きさらぎ げんたろう)。
天ノ川学園高校に転校生としてやって来ました。
リーゼントに短ランという、大昔の(私の少年時代ですが)ツッパリスタイルです。

弦太朗は転校早々、教室で
「この学校の生徒全員とダチ(友達)になるッ」
と宣言します。
この弦太朗が仮面ライダーに変身して、学園の平和を乱す悪の結社「ゾディアーツ」と戦うのです。
設定は学園ですが、お馴染みのバイクや、採石場での特撮シーンももちろん出てきます。

さて、その最終回です。
悪の親玉は、何と学園の理事長でした。
卒業式の場に弦太朗をはじめ仮面ライダー部の部員が集まります。
弦太朗は必殺技の「青春銀河大大大ドリルキック」を理事長に喰らわして倒しました。

「この私が負けた…」と茫然自失している理事長に、弦太朗はニコリと笑います。
そして、「ダチ(友達)になってくれ、理事長」と手を差し出すのです。

この一言が理事長の心を変えました。
改心した理事長と弦太朗は握手を交わして友情を結ぶのです。

しかしもう肉体的限界に達した理事長は消滅(死)の前に「君たちがプレゼンター(宇宙人)に会ってくれ」と頼み、自分が叶えなかった夢を弦太朗たちに託します。
弦太朗は「わかった。約束する」と誓いました。
そして静かにその場を立ち去る理事長に敬意を表して、弦太朗はじめライダー部の部員たちは深々と礼をして見送りました──。

という話です。
いくら子供向けのドラマとはいえ、ある意味ではとても日本的なシナリオかも知れませんね。
アメリカのヒーロー映画には絶対にあり得ない展開ではないでしょうか。
欧米的な価値観では、悪は根絶するものであり、悪党と友達になるということは、正義のヒーローが悪に成り下がることを意味します。

ですがフォーゼ(如月弦太郎)の場合は決して自分が悪党になったわけではありません。
それはおそらく──フォーゼに負けて、悪の固い仮面を脱ぎ捨てて一人の人間となった理事長に、正義のヒーローとしてではなく、一人の人間として「ダチになってくれ」と手を差し出したのだと思います。
今まで敵だと思っていた如月弦太郎が、自分を差別せずに、友情を結んでくれる・・・
そういう態度に理事長の心は和されたのではないでしょうか。

詳しいストーリーはこちらをごらん下さい。
http://mboverdrive.blog93.fc2.com/blog-entry-1209.html
http://blog.livedoor.jp/jerid_and_me/archives/52033410.html

   ○   ○   ○

このフォーゼの最終回を読んで「いや、これは子供向けだから」と思った人も多いと思います。
そうですね、大人向けのドラマでこのエンディングでは、ちょっと、どうでしょうか。
子供向けだから、こういうエンディングもアリなのでしょう。
親は子供同志がケンカすると「仲直りしなさい」と怒りますもんね。そういう教育的指導がシナリオに込められているのかも知れません。

しかしよく考えてみると、なぜ子供には「仲直りしなさい」と言うクセに、大人はケンカしても仲直り出来ないのでしょうか?
子供に「仲直りしなさい」と怒る親が、夫婦喧嘩の挙げ句に離婚していたのでは、シャレになりません。
「嫌いな奴とは縁を切りなさい」と身をもって教えていることになるのです。

子供に怒るクセに、自分はケンカした後、仲直り出来ないのです。
それもそのはず。
どうやって仲直りしたらいいか分からないからです。
自分のこの腹立たしい気持ちをどう静めたらいいのか。
相手の怒りや悪意をどうやって静めたらいいのか。
そ~んなことは誰も教えてくれません。親も学校も教えてくれません。
しかし、自分が出来なくても子供には「仲直りしなさい」と怒るのは、人間の魂の中に「みんなと仲良くしたい、仲良くしなくてはいけない」という痛烈な想いが先天的にセットされているからです。

ではどうしたら仲良く出来るのか、ケンカした奴と仲直り出来るのか、その技が「言向け和す」です。

   ○   ○   ○

「敵と友達になる」という、ある意味では子供じみたことを、平気で言ってのけた大の大人がいます。
合気道の達人・塩田剛三(1915~1994年)です。
彼は合気道開祖・植芝盛平(1883~1969年)の直弟子であり、養神館合気道の創始者です。(詳しいことはウィキペディアを見て下さい)

「超偉人伝説 神様と呼ばれた男 合気道塩田剛三伝(2/2)」
https://youtu.be/HTXwmGDrkBc
このユーチューブ動画の2:22あたりから、塩田剛三の子息の塩田泰久氏が、父親の強さの秘密について次のように語っています。

すぐ一つになっちゃうんですよね。誰とでも親しくなれるし、悪い人でも、自然と一つにしてしまう。それが一番、集中力をたくわえた原因だと思っています。

そしてそれに続いてナレーターが次にように語っています。

(塩田剛三が)弟子の一人に「先生、合気道で一番強い技は何ですか?」と聞かれ、こう答えた。
「合気道で一番強い技、それは自分を殺しに来た相手と友達になることさ」

自分を殺しに来た相手と友達になる。

これはまさに「敵と友達になる」ということであり、「言向け和す」の精神です。

実は塩田剛三は王仁三郎をあまり評価していなかった…という情報もあるのですが、「言向け和す」の精神は植芝盛平を通して、しかっりと孫弟子に受け継がれているようです。

この動画を見た人かも知れませんが、ヤフー知恵袋で「自分を殺しに来た相手と友達になる技ってどういう技?」という質問をしている人がいました。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1197684001

それに対して何人もの人が答えていますが、精神論もあり、技術論もあり、人それぞれ色々な意見が出ています。

しかし言うまでもなくこれは合気道という道場の中だけの話ではなく、人間の人生、社会生活の中で用いられる「技」であります。
時には、手も、足も使わず、口(言葉)さえも使わずにその技を使わねばならないこともあります。

そしてその「自分を殺しに来た相手と友達になる」技を極めたら、もう世界に恐いものは何もなくなることでしょう。

それは宗教が目指す「安心立命」の境地であると言っていいかも知れません。

それがミロクの世の境地です。

(続く)


この文章は過去に次のところへ掲載した文章に加筆訂正したものです。
「言向け和すメールマガジン」2016年3月16日号 及び 2016年8月10日号