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言向和(28) 和されて再生した米国の自動車工場

Published / by 飯塚弘明
投稿:2017年08月19日

前回は暴力以外の方法ということで、桑田真澄氏の話を紹介しました。

桑田氏は
「『絶対に仕返しをされない』という上下関係の構図で起きるのが体罰」
と語っていましたが、それは会社の上下関係でも同じです。部下に仕返しされないことをいいことに、不当な暴力行為を行う上司はどこにでもいます。パワハラ・セクハラのような犯罪行為とまでは行かなくても、仕事のミスを叱責したり、罵声を浴びせることは、部下にしてみると非常に不愉快です。

しかし怒鳴らなくても部下を指導することはもちろん可能です。

トヨタ自動車が80年代にアメリカで現地生産するためにGM(ゼネラルモーターズ)と提携し、84年に合弁でNUMMI(ヌーミ)という会社を設立しました。工場はカリフォルニア州のフリーモントという町にあったGMの工場を譲り受けることになりました。

この工場は82年に閉鎖されており、再建するに当たって、次のようなエピソードが伝えられています。次の記事から抜き出して紹介します。

●ライフハッカー日本版 「怒鳴っても人間は変わらない!」史上最悪の工場を変えたシンプルな教え【LHベストヒッツ】
http://www.lifehacker.jp/2013/08/130825fix_the_machine.html

また、次の記事・書籍も参考にしました。

●JBpress 日米の共存共栄に貢献したトヨタ生産方式
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5012

●楠 兼敬『挑戦飛躍 -トヨタ北米事業立ち上げの「現場」』(2004年、中部経済新聞社)
http://amzn.to/2x00LyC

カリフォルニア州フリーモントの工場の労働者は全米で最悪だと呼ばれていました。
当時の労働組合長は「戦いの毎日だった」と語っています。働いている時間より抗議活動をしている時間の方が長く、ストライキは日常茶飯事で、毎日が混乱の連続。「この工場で買えないものはない」と言われ、セックス、ドラッグ、アルコール、あらゆるものが工場内で手に入りました。賭博などの違法行為も見られ、無断欠勤は常態化しており、人数が足りなくて製造ラインが動かせないこともあるほどです。

会社が労働者に罰を与えれば、すぐに仕返しがありました。会社の車に傷を付けたり、ストライキを始めたり、部品を故意に付けなかったり、会社と労働者との戦争です。そしてついにGMは工場を閉鎖することにしたのです。

トヨタとGMの合弁会社が設立され、工場を再稼働するに当たり、今までの労働者を再雇用する取り決めが組合との間でなされました。労働者の意識を変えるためにトヨタは日本の工場に労働者を送り「全く新しい働き方」を見せました。有名な「トヨタ生産方式」です。

GM時代には作業員はミスをするとフォアマン(職長)から怒鳴られていました。「怒られたら次から注意するようになるだろう」と思って怒鳴るのです。

作業員は会社と個人契約で結ばれており、その契約通りの仕事が行われているかどうか管理するためにフォアマンがいるのです。フォアマンは部下の成績表を作りますが、どうすればミスをしないかの指導はしません。契約通りの仕事が出来なければ即クビにします。仕事の面倒を見てくれる上司ではなく、監視兵のようなものですね。

この生殺与奪の権を握っているフォアマン(会社)の力から作業員を守るために、強大な労働組合がストライキなどの労働活動を日常的に行っていたのです。
こういう対立構造では、人間関係はギクシャクするし、生産効率も上がらないでしょう。

GM流のやり方しか知らない労働者たちはトヨタの工場に研修に来て驚きました。
トヨタ方式は、個人の能力を大切にしますが、それ以上にチームワークを大切にします。現場の作業員と上司は同じチームの仲間です。対立する関係ではありません。GMでは組み立てラインを止めたら怒鳴られクビですが、トヨタではラインを止めても上司が怒鳴ることはありません。それどころかラインに飛んできて一緒に問題を解決してくれるのです。

フリーモントの労働者にとってこれは信じられないことでした。フリーモントで30年以上働いてきた白髪交じりのアメリカ人が涙を流しながらトヨタの労働者を抱き寄せました。彼らは、みんなが協力し合うトヨタの働き方を見て心の底から感動したのです。(和された瞬間です)

3ヶ月後、フリーモントの労働者は帰国して工場が再稼働しました。抗議活動や無断欠勤はなくなり、労働者たちは仕事に来るのが楽しみだと言うようになりました。作った車は高い品質評価を受け、製造コストも激減しました。全米最悪と言われた工場が全米トップの工場に生まれ変わったのです。

   ○   ○   ○

「みんなで協力して仕事を早く終わらせよう」「手が空いたら他の人を手伝おう」というのは私たち日本人にしてみると、ごくふつうのことです。それが当たり前のことだと思って仕事をしています。
しかしアメリカ人から見ると、それはとても驚異的なことだったのです。
対立を生み出す経営ではなく、みんなが和合していく経営ですね。
怒鳴ったり、解雇権をちらつかせたりして脅迫的・暴力的に労働者を管理しなくても、生産効率は上がるという、良い例です。GMよりもトヨタ方式の方がはるかに良い結果を出せてます。

といっても、トヨタが労働者にやさしい会社だと言うつもりはありません。所詮は常に利潤を出し続けなくてはいけない悲しき上場企業です。2008年秋のリーマンショックの際にトヨタは真っ先に派遣切りを行い6000人もの派遣労働者のクビを斬って路頭に放り出しました。
決して経営が苦しいわけではないのですが、減産になったので不要人員を削減したのです。それをやらないと株主に怒られます。労働者の生活よりも株主への配当を最優先しなくてはいけないのが上場企業なのです。
こういう利潤追求のために生産効率を追求したノウハウの集大成が「トヨタ生産方式」だと言えるでしょう。

同じように効率を追求しても、アメリカの文化から出てきたやり方は、「怒鳴って急がせ、監視してサボらせない」というやり方です。
しかし日本文化から出てきたやり方は、「みんなで協力して早く仕事を終わらせよう」というやり方なのです。
とても素晴らしいことだと思いませんか?
私たち「和」の国の人間なら、暴力に依らずに世の中を良くする方法を、きっと見つけ出せるはずです。

(続く)


この文章は過去に次のところへ掲載した文章を加筆訂正したものです。
霊界物語スーパーメールマガジン」2013年10月31日号
電子書籍『言向け和す ~戦わずに世の中を良くする方法』(2015年12月)